『スタンフォード大学マインドフルネス教室』

ここ数年、毎年、新年の誓いに書いている「今年は出来るだけ本を読まない」は、すぐに破棄され、相変わらず机の上には本が積み上がっています。

そんな読書三昧のなかで、「この本と出会えて良かった!」1冊が、スティーヴン・マーフィ重松さんの『スタンフォード大学マインドフルネス教室』

2016年に出版された本です。

ちなみに『スタンフォードの心理学授業 ハートフルネス』という本もありますが、紹介されているエピソードが重複しており、ほぼ同内容の本でした。私は『マインドフルネス教室』の方が読みやすかったので、こちらをご紹介します。


著者は日本人の母親とアイルランド人の父親のもと、アメリカで育った心理学教授。十代の頃、愛媛県松山の祖母と2人で暮らした経験もあり、日本とアメリカのはざまで様々な差別や違和感、葛藤を経験しながら成長しました。西洋的な心理学に加え、日本で内観や森田療法を学び、受容すること、自分の弱さを受け入れること、沈黙すること、ただ聴き続けるいう東洋的な要素を取り入れた授業をハーバード、東京大学、スタンフォード大学の生徒に行っています。


まず、スタンフォードというアメリカでも一流の大学に行くような学生は、それなりに大変なんだなぁというのが率直な感想。自分の弱さをみるのを避け、人との会話は常に話す側。論理的で相手を説得し、やりこめ、勝利することを目指すのがアメリカの教育方針。どうやら、人の話を聞いたり、自分の弱さを認めることは不得手のようです。

そして、日本人が受け継いできたメンタリティは、自己がなく同調的であるという批判もありながら、実は折れにくく、芯の強さを生んでいるのかもと、日本的な心のありかたを見直す1冊にもなりました。


重松教授はこう書いています。 

(スタンフォード大学の学生は)何もかもうまく処理してこの上なく満足げだが、内側ではなんとか生き延びようと苦闘しているかもしれない。自信、自制、自立を装ってリスクを避けながら自分を守ることで、好印象を与え、安全を感じているのだ。(中略) 私が教えるのは、今まで自分の業績を称えられてきた若者たちだ。失敗の経験はほとんどないという者ばかりだ。そのため、失敗や間違いを犯すことを恐れている。間違いが許される立場にないと感じているのである。


第6章の「受容」という章で、重松教授はこう述べていました。

前にも述べたが、ハーバード大学の学生時代、私はキヨ・モリモトという名の教授と出会った。彼の両親は和歌山からより良い生活を求めてアメリカにやってきていたという。彼自身はアイダホ州のジャガイモ農場で育ったのだが、太平洋戦争が勃発すると24歳でアメリカ陸軍に入隊し、ヨーロッパで名高い第442連隊に加わることとなった。
(中略)

この戦争にたいし、キヨがとったのは母国のために戦いにコミットするという方法だった。だがその一方で、日系一世の年長者だちが、アメリカ政府に強制収容所に送られるというような事態になっても「仕方がない」とそれを受け入れる道を選んだのが理解できず苦しんだという。
(中略)

しかし、年を重ねるにつれて彼はそれを違った意味に捉えるようになった。「仕方がない」は変えようもない人生の側面に対処するひとつの方法だということを理解したのだ。
(中略)

キヨはまた、当時の人々は「仕方がない」という姿勢を持つことで、創造的かつ生産的活動へと向ける新たなエネルギーを感じるようになり、恨みや後悔よりも感謝とともに生きることができたと語った。

「自分の置かれた場所を認識し、受け入れることで、私たちは自分が置かれた状況の限度内において新たな可能性と自由を発見するのです。一世たちの場合、自分たちが無力であることを認めてそれを尊重したからこそ、収容所の柵の中で、美しい花畑や菜園を育てることや力強い詩を書くこと、見事な芸術作品を生みだすことに自分のエネルギーを向けることができました。彼らは毎日が人生の贈り物なのだと知っていたのです。命こそが神から私たちへの贈り物なのだから、威厳と愛をもって人生を生きるべきなのです」
(中略)

三世であるリュウタ・フルモト師の場合は「仕方がない」を、あるがままの状況を受け入れ、それを最大限に活かそうとするレジリエンス(回復力)だと考えている。強制収容所にあって、人々は不毛の土地を耕し、子どもに教育を与え、日本庭園を造り出したり池を造ったりした。収容所から解放された時には全財産を失ったと知ったが、生活の再建に乗り出し、子どもたちが社会で成功を収めて責任ある一員となれるよう導いていった。
(中略)

フルモト師は話す。「私たちはこうした状態を避けて通ることはできません。人生は苦しいものだというと大変悲観的に聞こえますが、人生の真実をはっきりさせるのは実に貴重な、思いやり深い行為です。もし教えが人生は楽しいとばかり強調するなら、そうでないことに私たちは絶望するでしょう。それは自分たちではどうにもできない状況下で生じる日常体験において不親切な行為です。仕方がないと言うより他ないような人生の困難や、思い通りにならない無力感を真に受け入れる心があって、平和で穏やかな人生を送ることができるのです」

『スタンフォード大学マインドフルネス教室』_c0125114_23042382.jpg


年齢的に、高齢となった親の介護のために実家に戻ったり、仕事を辞めたり、という知り合いが何人かいます。

私も母が癌で入退院を繰り返すようになり、そのうち父親も脳梗塞で倒れたので、両親を神奈川県内の病院や施設に入院させ、一度に2人の面倒をみていた時期があります。これはまさに「仕方のない」状況で、起きてくることをただ受け入れ、やり続けることしかありませんでした。

成功すること、人より秀でることを追い求めているような人にこそ必要な1冊かもしれません。



by hiroshimapop | 2024-11-01 08:08 | おススメBOOKS

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