『あるがまま』~重岡壽美子の物語~
2023年 02月 03日
ところで、同じ頃、「ゆの里」では、ちょっと困ったことが起きていました。連日、一人の山伏の方が、お風呂に入りに来ていたのです。ここは高野山の麓ですから、修験者の方が来ること自体は珍しくないのですが、その方は、なぜかお風呂場で、高野山に向かって法螺貝を吹くのです。ただでさえ音が響く法螺貝を、反響がすごい浴場で吹くわけですから、どれくらい大変なことになるか、きっと想像いただけると思います。(中略)父が亡くなって、1ヶ月ほど経った頃でしょうか。食堂にいた例の山伏の方が、私に「社長さんいますか?」と声をかけてきました。「はい、おりますけど・・・」と母を呼んできて、私も同席したところ「社長さん、ビールをごちそうさせていただけませんか?」と山伏の方が言います。母が頷き、注がれたビールをグーッと飲み干した途端、その方は胸の前に両手を合わせながら、ポロポロと涙を流し始めたのです。(中略)「実はここはものすごく特別な場所で、高野山が拓かれる前の聖地だったところです。この場所に、こういう建物を建てていただいたことは、ものすごく大きな意味と役割があります。おそらくこれから3年くらいは、今のような苦労が続くと思いますが、それを越えた頃から、日本全国からいろんな方たちが癒やしを求めてやってくる、ここはそういう場になっていきます。ですから、絶対に諦めずに続けてください。これは社長さんがやらないといけないことなんですよ」(中略)ちなみに、それまで1ヶ月間、毎日のように通ってきていた山伏の方は、その日を境に、パッタリ見えなくなりました。今考えると、空海さまのお使いとして、メッセージを伝えに来てくれていたような・・・。私には、そんなふうに思えるのです。