能の勉強会に参加した際、講師としていらしていた狂言師さんが体験されたというエピソードが哀しかった。
狂言師は小学校や中学校に呼ばれて体験学習の講師をすることがよくあるそうで、東京のある小学校に行ったときのエピソードを紹介して下さいました。その小学校は、教育熱の高く小学校から子どもを私立に通わせているご家庭が多いエリアにあったそうです。
で、その狂言師さんが体験学習が終わって先生と話ながら廊下を歩いていると、ある教室の前で小学4年の男の子が泣いていました。何故泣いているのか理由を聞いてみたら、その子どもはこう言ったそうです。
彼はもともと私立小学校の受験に落ちて、その公立の小学校に通っている。だから今度は中学受験のために塾にずっと通っているけれど、成績はいっこうに上がらない。このままでは私立中学に行くなんてとても無理。塾にも行って自分なりに一所懸命勉強しているのにこのまま成績が上がらず、私立中学に落ちてしまったらもう自分の人生は終わったも同然。いったいこれからどうしたらいいのか、と泣いていたそうなのです(記憶を頼りに書いているので、多少表現は違っているかもしれません)。
小学校4年生、10歳で彼は自分の人生が終わったも同然と、もはや自分の人生に希望が見いだせなくて泣いている。
彼の親が、子どもに歩くようにと提示した人生は、よい中学に行き、よい大学に行き、そしてよい企業に勤めることなんでしょうね。それ以外の選択肢があることを彼は全く知らない。この子はもしかしたら、自然の中で自由に駆けまくったり泥んこで遊んだことすらないのかもしれない・・・。
これを聴いた前後、Facebookで2017年に吉田俊道さんという書かれたこんな投稿がシェアされていました。
徳島県に、自然スクールトエックという常識を越えまくった、幼児から小学6年生までの学校がある。
そこでは、授業はまったくない。毎日遊びまくり。
そして中学生の年齢に達したら、4月から突然普通の中学校に通い始める。
その結果は・・
すでに12年間、中学校に送り出しているが、全員、学力に関して脱落者はなく、それどころか成績優秀になっているのです。
(中略)
毎日、好き放題にやらせて・・
それじゃあ、先生の言うことを聞かなくなるのでは?
努力しなくなるのでは?
辛抱できない子どもになるのでは?
そんな心配をしてしまいそう。
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でも真実は反対だった。
やりたいこと、興味のあることに向かって、それが好きだから能力フル回転で行動するから、集中力がすごいし、段取り上手。
勉強も掃除も、さぼったりするような考え方がそもそもない!
掃除は必要だから、きれいになるのがうれしいから、人の役に立つから、掃除する。
(中略)
さて、そんな子たちが、中学校からは地元の中学校に通う。
小学校の勉強はしたことがないので、
まわりについていけないはずなのだが、
中学校の1学期はもともと小学校の復習がほとんどなので、
そこで大体追いついて、2学期では追い越すことが多いそう。
..
それどころか、しだいにクラスの人気者、リーダーになっていく。
なにしろ自己肯定感が半端ない。
だから、相手の強いところを心の底から褒めてしまう。
変ないい方だけど、「自分の弱いところ、人より下手なところがあることに、自信がある」。
小学校時代に、友達を大切にする心、相手の気持ちを察する能力が身についているし人間としての魅力、わくわくと取り組む姿に、次第にみんなから慕われるようになってしまう。
自分がしっかりしているからいじめの対象にもならない。(以下略)
授業は全くなく遊んでばかりの学校。でもそこで育った子どもは自分で考える力と他を思いやる心が育っている。そして自己肯定感が半端ない。この学校に子どもを入学させる親の覚悟も半端ないと思いますが、学校を紹介するこの文章から発せられるエネルギーは、おそらくどこの公立の小学校にもないものでしょうねぇ。
日本の今の多くの学校は、私立も含め、何も考えず指示通りに動く人養成学校のよう。
セミナー会場でよく海外講師に言われるのは、日本人は質問の時間であっても何も質問もせず意見も言わない。海外だと講義中でもどんどん質問の声が入り、質問の時間には質問したい人が列を成す。日本のテレビは海外ニュースは少なく、芸能ニュースとお笑いとグルメと旅行の番組ばかり…。
先日、姪っ子から、会社勤めが性にあわないから相談に乗ってほしいと連絡があり、晩ご飯食べながら喋ってました。
彼女は大学卒業後に就職した会社はすでに辞め、今は2つめの会社で仕事を始めたところ。どんな仕事が自分に合うのか、何がしたいのか全く分からない・・・。
そんな姪っ子に私が勧めたのは小旅行でいいので旅行に行くこと。今のままではAという会社を辞めBという会社に勤めてみる。でもBという仕事が合わないから、Cという会社に行く。結局は小さな世界の中で選択してグルグル回っているだけ。だから、国内でも国外でも、たくさん旅行をして、知らない人とたくさん喋ってみる。いろんな人がいて、いろんな社会や働き方があることを自分の心とカラダで感じてみたらとアドバイスしました。
世界は広い、毎日野原に行って遊んでばかりで勉強しない小学校だってある。大学に行かない人生も、会社勤めしない人生もある。
いつも歩かない道に寄り道するだけだっていい。そんなことを、あの廊下で泣いていた男の子が気がつく日が来るといいなぁ。