『あなたの体は9割が細菌』
2016年 12月 15日
メルマガで紹介したのは、太りやすくなる腸内微生物や抗生物質との関係でしたが、ここでは出産時に赤ちゃんが母親から受け取る微生物について書かれた部分をご紹介。
子が必要な微生物を母が抜かりなく渡すその自然の仕組みは感動ものです。
~229ページから~
コアラの子どもは生後6ヶ月になると母親の腹袋から顔を出すようになる。そして母乳だけに頼る食生活からユーカリの葉を食べる食生活への移行が始まる。(中略) ただし、生まれたばかりのコアラの腸にはユーカリの葉を分解する微生物がいない。その腸に微生物の苗を植えるのは母親の仕事だ。そのときが来ると、母コアラは「パップ」という糞便に似た離乳食を出す。消化しやすく分解されたユーカリの葉と腸内細菌の混合であるパップは、生まれたばかりのコアラの腸に微生物を届けると同時に、その微生物が群生するのに必要な微生物の餌を与える。
母が子にマイクロバイオータ(微生物)を授けることはほ乳類以外の動物もやっている。母ゴキブリは自分のマイクロバイオータを「菌細胞」という特別な細胞に保存しておき、産卵直前に菌細胞の中身を体内で放出する。(中略) 一方、カメムシはコアラと似ていて、産卵後の卵の表面に微生物入りの糞を塗りつけておく。卵から孵ったカメムシはすぐさま母の糞を食べる。別の種であるマルカメムシは微生物なしで卵から孵ったあと、卵のそばに母が置いていった、微生物のつまったカプセルの中身を吸う。このカプセルが不在だと、マルカメムシはカプセルを求めて付近を歩きまわる。(中略)
細胞の数だけで言うなら、(人間の)赤ん坊はこの世に生まれて最初の数時間で「大半がヒト」の状態から「大半が微生物」の状態に切り替わる。子宮内部の羊水につかっているとき、胎児は外界の微生物からも母親の微生物からも守られている。だが、破水と同時に微生物の入植がはじまる。赤ん坊は産道を通るとき、微生物のシャワーを浴びる。ほぼ無菌状態だった赤ん坊を、膣の微生物が覆っていく。
産道から顔を出すとき、赤ん坊は膣の微生物とはまた別のタイプの微生物を受けとる。そう、誕生直後に母親の糞便を摂取するのはコアラだけではないのだ。子宮収縮ホルモンの作用と降りてくる胎児の圧力を受けて、陣痛中や出産時にほとんどの女性は排便をする。赤ん坊は顔を母親のお尻の側に向けて頭から先に出てくる。そして母親がつぎの陣痛に備えて体を休めているあいだ、赤ん坊の頭と口はうってつけの位置に出てくる。あなたは本能的に顔をしかめるかもしれないが、これは幸先のいいスタートだ。母から子への最初の贈り物、糞便と膣の微生物が無事に届けられることになるのだから。 (中略)
微生物とその遺伝子ー母のゲノムとうまく調和して働いていた遺伝子--を受け取った赤ん坊は、希望に満ちた人生のスタートを切る。
出産で力むとき、排便をしないよう浣腸をしたり、排便をしてしまうことを恥ずかしく思う女性が多いと思いますが(例えばこのサイト)、それは赤ちゃんにとって必要な微生物を渡す自然の摂理だということを知っていれば(あるいは産院がそう教えてくれていれば)、不要な羞恥心を感じなくて済みますよねぇ。
そして、赤ちゃんが母親の膣から受け取る微生物はいわゆる乳酸菌。以前は膣に乳酸菌がいるのは、乳酸菌が膣を感染症から守っているからだと信じられていたのですが、膣に乳酸菌が存在している本当の役割は、赤ちゃんが生まれたあと、すぐにミルクが消化できるよう、産道を通る赤ちゃんに乳酸菌を渡すため。
普段は、それほど必要とされない乳酸菌が女性の膣内にずっと存在し続けているというのは、地球に生きる生き物にとって、種を次の世代に次ぐことが何よりも優先されているということなのでしょうか。そして、赤ちゃんが健やかに成長するための必要な体内微生物を抜かりなく受け渡す仕組みが母体にも赤ちゃんにも備わっている、というのは本当に美しく、素晴らしい!
乳酸菌は膣にずっといるから膣のための細菌だと思いがちだが、赤ん坊のための細菌であり、出産のときが来るまでそこで待機しているのだ。現代の先進国でこそ女性の出産回数は減ってしまったが、本来なら膣の乳酸菌の出番はもっと多かった。膣は出発ゲートとして、赤ん坊を最適な状態で人生航路に送りだせるよう進化してきたのだろう。
母乳についても興味深い研究がなされています。
不思議なことに、出産方式によって母乳に含まれる微生物が変わる。陣痛がはじまる前に計画的な帝王切開で出産した女性の初乳に含まれる微生物は、経膣出産した女性のそれとかなり違う。その違いは少なくとも6ヶ月は続く。しかし陣痛が来たあと緊急の帝王切開を受けた女性では、経膣出産した女性と初乳の微生物が似ている。(中略) おそらく陣痛中に強力なホルモンがたくさん出て、微生物を腸から乳房に移動させているのだろう。計画的な帝王切開は赤ん坊にとって二重の不利益となる。産道で必要な微生物を得られないうえに、母乳による追加の微生物も得られない。
体内微生物を主体に考えると、出産に対する考え方や姿勢も変わってきます。これ以外にも、妊婦さんが抗生物質を使うこと、麻酔を打って出産することなど、さまざまな課題も出てきます。産婦人科の先生や助産婦さんにもぜひ読んでいただきたい1冊です。