映画「牛の鈴音」
2009年 12月 19日
韓国のドキュメンタリー映画「牛の鈴音」は、見終わったあと何時間も経っているのに、いまだに静かな静かな感動と余韻を心の奥底に響かせてくれている・・・・。
この映画は、牛の平均寿命は15年と言われるなか、40歳まで働き続けている老いぼれ牛と、老いぼれ爺さんと、そして、口やかましいお婆さんのお話。
朝暗いうちから起きて、藁で牛のえさをつくり、牛に揺られて野良に出て、牛に揺られて家に帰る・・・。映画のナレーション代わりにお婆さんの小言が続く。「お爺さんは牛ばかり可愛がって私の世話はしてくれない」「廻りは農薬を使っているのに、お爺さんは牛に毒だと使ってくれない」「廻りは機械で農作業をしてるのに、うちは手で田植えをして手で稲を刈る・・・私は苦労ばかりの人生だ」
お爺さんは子供の頃、鍼治療に失敗して足が悪い。畑を膝でいざりながら農作業をする。2本の杖を使わないと歩けない。それでも農薬を使わず、農機具も使わず、野に這い蹲るように草を刈り、藁を集めて牛のえさを作ってやる・・・。車にも乗らず、どこに行くにも、老いぼれ牛に牽かれてゆっくりゆっくり行く。街の病院に行くときも牛に揺られて行く・・・。
牛を何よりも大切にしているけど、その老いぼれ牛を休ませたりはしない。自分が野良に行くときには、その老いぼれ牛と一緒に行くし、重い薪や米を牽かせもする(あとで気がついたけど、あの牛、30年も一緒に暮らしてるのに、名前すら無かった・・)。
棒のようにやせ細ったお爺さんの足。土で汚れた指先。やせ細った牛の背中、お婆さんのシワくちゃな顔。
その1つ1つの、なんと美しいことか・・・。
そして、この静かな牛との生活は、もう韓国でも消えつつあるそう・・・。
見終わったあと、この映画はドキュメンタリー映画だと、あの老夫婦と牛の物語のリアルな日々をただ遠くから撮影したものだということを知って、あらためて驚いた。
生きている間は働くといっていたお爺さんは、きっと今日も、黙々と野良仕事をしているんだろうなぁ・・・。
20代の頃、カナダをふらふらしているときに、林真理子さんの「南青山物語」と石牟礼道子さんの「苦海浄土」を2冊続けて読んだことがある。
「南青山物語」は確か、青山や表参道のオシャレな店やオシャレな人たちの日々の暮らしぶりを書いたエッセイだったと思う。誰もが憧れる華やかな都会暮らし。片や、苦海浄土に出てくるのは水俣湾の漁村でひっそり慎ましやかに暮らしてきた水俣病患者の話。
でもあの「苦海浄土」に出てきた人々の暮らしは美しかった・・・・。お金では決して測れない豊かさがあった・・・。
今日の映画を何かと比較するなら、私には、あの「苦海浄土」を読んだときの衝撃でしょうか・・・?
マイケル・ジャクソンの映画は3回見に行ったけど、この映画は何回見に行けるか・・・。
東京でも3館しか上映がないから、ちょっと遠い・・・・!
でも、またあのお爺さんと老いぼれ牛に会いたくなった。
予告編はこちらから